大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)5456号 判決 1986年10月30日
原告
株式会社寺川商店
右代表者代表取締役
寺川淳之祐
右訴訟代理人弁護士
米田実
同
辻武司
同
松川雅典
同
四宮章夫
同
田中等
同
田積司
右訴訟復代理人弁護士
米田秀美
被告
佐伯建設工業株式会社
右代表者代表取締役
松岡俊治
被告
大京観光株式会社
右代表者代表取締役
横山修二
右両名訴訟代理人弁護士
色川幸太郎
同
中山晴久
同
石井通洋
同
高坂敬三
同
夏住要一郎
同
間石成人
主文
一 原告の主位的請求をいずれも棄却する。
二 被告らは、原告に対し、各自、金九六一万六五三八円及びこれに対する昭和五八年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の予備的請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第二、第四項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主位的請求
(一) 被告佐伯建設工業株式会社(以下、被告佐伯という。)は、原告に対し、次の(1)ないし(4)記載の各工事をせよ。
(1) 別紙物件目録一の1記載の物件(以下、原告新建物という。)を別紙工事検討書一及び二に記載の方法により水平にする工事
(2) 原告新建物を、別紙物件目録一の2記載の物件(以下、原告旧建物という。)と接合金具、接着剤などを使用する方法により、接着させる工事
(3) 原告新建物と原告旧建物との接合部分全ての割れ目、亀裂部分にセメントなどを流入させる方法により、右割れ目などを埋める工事
(4) 原告新建物及び原告旧建物の傾斜・倒壊を防止するための、別紙物件目録二及び三記載の土地に薬剤を注入するなどの方法による補強工事
(二) 被告らは、原告に対し、各自、金九〇〇万円及びこれに対する昭和五八年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(四) 仮執行宣言
2 予備的請求
(一) 被告らは、原告に対し、各自、金二八一九万〇一一〇円及びこれに対する昭和五八年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告佐伯は、原告に対し、原告新建物及び原告旧建物の傾斜・倒壊を防止するための、別紙物件目録二及び三記載の土地に薬剤を注入するなどの方法による補強工事をせよ。
(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(四) 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、酒類の卸売販売等を主たる業とし、別紙物件目録二及び三記載の土地上に、昭和四二年頃建築された原告旧建物を所有し、主として小売店舗、事務所として使用していたが、昭和五三年頃、原告旧建物の西壁に接して原告新建物を増築し、増築部分である原告新建物は主として酒類等の商品の倉庫として使用している(以下、原告旧建物と右増築された原告新建物とを合わせて、単に原告建物ということがある。)。
2 被告大京観光株式会社(以下、被告大京という。)は、その所有する別紙物件目録四記載の土地上に、同目録五記載の分譲マンション(以下、被告建物という。)を建築することを計画し、右建築工事を被告佐伯に発注し、被告佐伯は昭和五八年二月頃より基礎工事を開始し、同年四月二三日から掘削工事に着手した。原告建物の敷地と被告建物の敷地は隣接しており、右両建物の位置関係は別紙図面のとおりである。
3 ところが、被告建物の建築において被告佐伯が掘削工事に着工した直後から、原告新建物が西側方向に傾斜し、そのため原告新建物の東側の原告旧建物との接合部分全体に亀裂が生じるに至つた。右傾斜・亀裂は現在も徐々にではあるが確実に進行、拡大している。
4 因果関係
原告建物の傾斜・亀裂が(一)被告佐伯が土留工事で使用したアースオーガーによる土の緩みを原因として生じたものか、(二)掘削工事作業に伴う重機等の振動によつて地盤が圧密されたことによるものか、(三)原告建物の下の土砂が鋼矢板の下から被告建物の方へ移動流入したことによるものか、(四)鋼矢板の傾き、たわみによる土砂の移動によるものか、あるいはこれら原因の競合によつて生じたものかは明確でないが、いずれにしても原告建物の傾斜・亀裂は被告佐伯の掘削工事に起因して発生したものである。
5 現状回復請求について
以上のとおり、原告は原告建物を所有しているところ、被告佐伯の本件工事によつて、原告新建物が西側に傾斜し、原告新建物と原告旧建物との間の取合(接合)部分に亀裂が生じるという原告建物所有権に対する妨害状態が生じており、かつ、将来にわたつて右傾斜亀裂が進行する危険がある。したがって被告佐伯は原告建物を傾斜・亀裂発生前の状態に修復し、かつ将来、かかる傾斜等が発生しないように、請求の趣旨1(一)(1)ないし(4)記載の修復工事及び補強工事を行うべき義務がある。
6 土地工作物責任
(一) 被告佐伯による掘削地部分、杭打ち機械、鋼矢板、その他圧入・掘削等の工事をなす工事設備、鋼矢板の圧入工事、掘削工事はいずれも土地の工作物であり、右工作物には原告建物の傾斜・亀裂の発生を防止するに足る設備を有していなかつた瑕疵がある。
(二) 被告らは右工作物の共同占有者であり、また被告大京は右掘削地部分の、被告佐伯は鋼矢板を除く本件工事設備の所有者であつた。
7 被告佐伯の過失
被告佐伯は、被告建物地盤の掘削工事を開始するにあたり、その工事は地中深く掘削するものであり、かつ、右掘削地部分の東側境界からわずか一メートルのきわめて近接した位置に原告新建物が存在するのであるから、右工事によつて原告新建物の地盤の土砂移動等が起こり原告新建物に何らかの影響を及ぼすことが容易に予見しえたにもかかわらず、原告新建物の基礎工法についての調査を実施することなく右掘削工事に着手した過失により、原告新建物の傾斜、旧建物との接合部分の亀裂を惹起させた。
8 被告大京の過失
被告大京は、住宅地造成、建設業の請負、建築物の設計、工事監理等に関する業務を行う不動産業者であり、中高層住宅の建築につき高度の専門的知識及び豊富な経験を有している者である。したがつて、被告大京は注文工事またはその工事の工法から本件被害の発生を容易に予見しえたものであるから、被告佐伯が被告建物の基礎工事を行うに際し、近隣の既存建物に損傷を与えたりすることのないように被告佐伯の注意を喚起し右損傷防止等のため被告佐伯が具体的に採ろうとしている工事施行上の措置などについて被告佐伯に詳しい説明を求め、それが損傷防止に十分なものであることを十分に検討し確認したうえで、工事施工の注文または指図をなすべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、よつて、原告建物に前記損傷を生じさせた。
9 損害
(一) 原告建物の揚前費用 金一九一九万〇一一〇円
原告建物の現状回復をするためには、別紙工事検討書(一)記載の修復方法で工事を実施した場合、別紙工事検討書(二)記載のとおり合計金一九一九万〇一一〇円が必要であると見積られている。
(二) 原告建物の塗装工事費用 金三〇〇万円
(三) 工事期間中の代替倉庫賃料、運搬料、人夫料等 合計金三〇〇万円
(四) 弁護士費用 金三〇〇万円
(五) 原告建物の評価損 金三〇〇万円
原告建物の傾斜・亀裂が修復されたとしても、原告建物の財産的価値は傾斜・亀裂発生前のそれよりも減少しており、その差額分は評価損として損害の一内容となる。
(六) 無形損害 金三〇〇万円
原告は、被告佐伯の工事による原告建物の傾斜・亀裂の発生のため、信用及び名誉を傷つけられ、業務にも支障をきたしており、その損害は原告建物の修復工事によつても慰謝されるものではない。
10 よつて原告は、主位的請求として、被告佐伯に対し、原告建物所有権にもとづき、原告建物に請求の趣旨1(一)(1)ないし(4)記載のとおりの修復工事及び補強工事を実施すること、並びに被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権にもとづき、各自原告が蒙つた損害二ないし六の内金九〇〇万円及びこれに対する原告建物の傾斜発生後の昭和五八年七月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、主位的請求が認められないときは、予備的に、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権にもとづき、各自、原告が蒙つた損害のうち金二八一九万〇一一〇円及びこれに対する前記昭和五八年七月一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払、並びに被告佐伯に対し、原告建物所有権にもとづき、原告建物に請求の趣旨2(二)記載のとおり補強工事(請求の趣旨1(一)(4)と同内容の工事)をすることを求める。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
1 請求原因1のうち、原告旧建物の建築時期及び使用用述は不知、その余の事実は認める。
2 同2のうち、被害建物の建築工事着工時期は昭和五八年三月である。その余の事実は認める。
3 同3のうち、原告新建物東側の原告旧建物との接合部分全体に亀裂が生じたとの事実は不知。原告新建物が西側方向に傾斜している事実は認めるが、右傾斜が被告佐伯の掘削工事着工直後から発生したことは否認する。本件工事開始前の昭和五八年一月二〇日にトランシットによる傾斜測定を行つたところ、原告建物屋上の西端部で西側に二二ミリメートルずれていることが認められており、右時点で既に原告建物は傾斜していたのである。また、右傾斜が現在も進行していることは不知。
4 同4の、被告佐伯のした工事と原告建物の傾斜・亀裂との間に因果関係が存在することは争う。
原告建物は、全く基礎杭が入つておらず、コンクリートを流し込んだだけのいわゆるベタ基礎であるが、原告建物付近の地盤は、地表から七〜八メートル付近まで軟らかい粘性土とゆるい砂質土から成る軟弱な層であり、原告建物の規模、構造等からみて、現状のようなベタ基礎だけでは、その地盤が原告建物の重量に耐えうる強度を有しておらず、本件構造工事が実施されたか否かに関係なく、遠からず原告建物に傾斜・亀裂が発生したものと考えられる。
5 同5の被告佐伯が現状回復及び補強工事の義務を負うことも争う。
所有権に基づく妨害排除請求は、現に妨害を生じさせている原因をその支配内におく者に対し、その妨害の除去を請求するものであり、妨害予防請求は所有権の侵害を生ずるおそれがある場合に、その原因を排除して侵害を未然に防ぐ措置を請求するものであるが、本件において被告らのマンション工事は既に竣工し、工事中に掘削した箇所の埋戻しも完了している。したがつて現に原告建物所有権に対する妨害の事実はなく、また新たに侵害を生ずるおそれもないから、原告が被告佐伯に妨害排除請求、妨害予防請求をなすべき余地はない。
6 同6の土地工作物責任の主張についても争う。
鋼矢板の圧入工事、掘削工事は工作物の前提たる「物」ではないし、杭打ち機械は土地の工作物には該当しない。
7 同7の被告佐伯についても争う。
被告佐伯は、工事施工に先立つてボーリングによる地盤の調査を行い、その結果にもとづき基礎工事として鋼矢板土留工法を採用し、かつ打設した鋼矢板は、これを抜取ることによつて周辺地盤に影響をもたらすことを考慮し、工事後も抜き取らずにそのまま埋め殺した。この結果、原告建物以外の周辺建物には、右工事に起因すると思われる被害はなんら発生していない。
また、原被告建物周辺の地盤の状況を見れば、原告建物は、支持杭により地表から一五メートル付近の洪積砂質土層の先端支持地盤に固定されていると考えるのが、建築工学上の常識にかなうものである。それゆえに被告佐伯は本件工事にあたつて原告建物を含む周辺建物の事前調査をした際にも、原告建物については当然に必要な基礎杭は入つているものと信じ、敢えて設計図面の提示までは求めなかつた。被告佐伯がこのように建築工学の常識からみて当然入つているべきはずの基礎杭を欠いていることまでも敢えて予想し、それを調査すべき義務を負うべきいわれはない。
8 同8の被告大京の営業内容については認めるが、過失があることは争う。
7で述べたように、原告建物が基礎杭を欠いているという被告佐伯も予見しえない事実を注文者である被告大京が予見して、自らあるいは被告佐伯をして調査させるべき義務はない。
9 同9の損害については不知。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1のうち、原告が酒類の卸売販売等を主たる業としていること、原告が別紙物件目録二及び三記載の土地上に原告旧建物を所有していること、原告が昭和五三年頃原告旧建物の西壁に接して原告新建物を増築し、増築部分は主として酒類等商品の倉庫として使用していること、以上の各事実は当事者間に争いがない。また<証拠>によると、原告旧建物は昭和四二年九月頃建築され、原告の店舗及び事務所として使用されていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
二1 請求原因2のうち、被告建物の建築工事着工時期以外の事実、すなわち被告大京がその所有する別紙物件目録四記載の土地上に被告建物の建築を計画し、右建築工事を被告佐伯に発注したこと、原告建物の敷地と被告建物の敷地とが隣接しており、右両建物の位置関係が別紙図面のとおりであること、以上の各事実は当事者間に争いがない。
2 また<証拠>を総合すると、次の各事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。
(一) 被告佐伯は、昭和五七年一二月一五日、被告建物建築工事の起工式を行い、工事のための準備を行つた後、昭和五八年三月一一日から同月三一日まで土留工事としてアースオーガーで地面に穴を開けながら、KSPⅢ型または同Ⅳ型の鋼矢板を圧入する工事を行い、掘削予定土地の周囲に間隙なく鋼矢板を打設した。
(二) そして同年四月九日から一九日にかけて、場所打杭打設、すなわち削孔した穴の中に鉄筋カゴを差し込み、コンクリートを流し込むという方法で、直径一・五メートルないし二メートルの基礎杭二〇本を打設した。
(三) 基礎杭打設後、同年四月二三日から同月二八日にかけて、地表から約二メートル掘削し(一次掘削)、同月三〇日から五月四日にかけて先に打設した鋼矢板が崩壊しないように切梁の架設を行い、同月六日から一一日かけて、さらに地表から約三メートル七〇センチ余りにわたって掘削し、(二次掘削)、同月一二日から一六日にかけて二段目の切梁を架設し、最後に同月一七日から二八日にかけて、さらに地表から深い所で七メートル八五センチまで掘削して(三次掘削)、掘削工事を完了した。
(四) 掘削工事完了後、同年六月一日から地下の建物躯体部分の工事を、鉄筋を組み、型枠を入れた後、コンクリートを流し込むという工程で行い、その外壁の完成に従って順次掘削部分の埋戻し、切梁の解体を行い、同年七月二一日には地表部分までのコンクリート打ちを終え、同月二九日に地表までの埋戻しを完了した。
(五) 次いで同月五月三〇日から鉄骨建方、配筋、コンクリート打ちによる地上部分の躯体工事に着手し、一階から順次施工しつつ、同年一〇月中旬からは内装工事も併行して行い、昭和五九年六月二〇日に被告建物を竣工した。
三次に請求原因3の原告建物の傾斜・亀裂の発生について検討する。
同3のうち、被害建物が西側方向に傾斜している事実については当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると次の各事実を認めることができる。
1 昭和五八年五月二七日、原告会社の常務取締役である木村から被告佐伯の作業所長である梁川に対し、原告新建物と原告旧建物との取合(接合)部分に亀裂が出来、雨漏りがしている旨の申出があった。そこで同月三〇日、被告佐伯は東洋クラフト株式会社(以下、東洋クラフトという。)に依頼して、近隣家屋の亀裂や歪み等について後記第一回目の調査に続く二回目の調査を実施するとともに、原告建物の右亀裂部分にポリサルファイルドを充填する措置(コーキング処理)を施した。さらに同年六月四日、木村から被告佐伯に対して、原告新建物の荷物用エレベーターの傾斜を調査してほしい旨の申入れがあり、被告佐伯が東芝エレベーターに依頼して同月一〇日に調査したところ、右エレベーター部分が西側方向に二六ミリ傾斜していることが判明した。
2 また本件工事着工前の昭和五八年一月二〇日、被告佐伯から依頼を受けた東洋クラフトが、第一回目の近隣家屋調査の一環として、被告建物建設予定地の周囲の建物の沈下及び傾斜現況測定を行つた際の原告新建物西南端でのトランシットを用いての測定結果によると、西に二二ミリ傾斜していることが認められたが、同年六月二九日、同じ地点において同一方法で測定したところによれば、傾斜値が西に五八ミリに拡大していることが確認された。
3 昭和五九年四月一八日の時点における原告建物の状況は、次のとおりである。すなわち、屋上から一階までの各階の床及び天井部分において原告旧建物と原告新建物の取合(接合)部分にそつて亀裂が走つており、三階壁面部には亀裂部からの雨水流入により塗料が流れた痕跡が残つている。また、一階の原告新旧建物にまたがつて存する部屋の壁面も、右取合部分付近で亀裂が入り、外壁面も右取合部分で屋上から縦に亀裂が入つている。
4 さらに、昭和六一年三月における原告建物の状況は、次のとおりである。すなわち、屋上床の原告新旧建物取合部分の亀裂が幅約五センチに拡大し、外壁部分の亀裂も幅が拡大して、被告佐伯が従前施したコーキングが割れている。また、原告新建物三階北東角の原告旧建物との取合部分に接して立てられているコンクリート三角柱が剥離して倒れかかつている。さらに一階天井の取合部分の亀裂も拡大し、コンクリートの破片がその隙間から落ちかかつており、その下に被告佐伯が落下防止のために張つたネットには、コンクリートの小片がひつかかつている。
以上のとおりであり、<証拠>中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
なお<証拠>の壁面部の筋、及び同号証の三二のブロックの破損については、原告建物付近を写した写真であることについて当事者間に争いがなく、撮影時期は<証拠>に照らし、被告佐伯の施工した工事前から存在していたものであると考えることができ、他に右ブロック損傷等が本件工事後に生じたものと認めるに足る証拠はない。
四次に請求原因4の、被告佐伯のした工事と原告建物の傾斜・亀裂の発生との間の因果関係について判断する。
<証拠>を総合すると、次の各事実が認められる。
1 原告新建物の増築は、三木の設計監理、株式会社藤田工務店の施工によつて昭和五三年一一月頃完成したが、原告旧建物とは構造的には別個であるものの、取合(接合)部分は間隙なく仕上げられた。原告建物の地盤は地表から一六、七メートルの深さまでは軟弱な層で構成されているのに、原告建物は基礎杭の入つていないいわゆるベタ基礎の工法で建築されていたが、完成後、被告佐伯が昭和五八年に被告建物の建築工事に着工するまでの五年間は、右取合部分になんら異常は認められず、原告から三木に対して建物が傾いたとかヒビが入つたという苦情が、述べられたこともなかった。
2 工事着工前である昭和五八年一月一九日に、被告佐伯から依頼を受けた東洋クラフトが近隣建物の亀裂等の調査を行い、原告建物についても亀裂らしきものが認められる箇所は全部写真を撮影したが、原告建物の取合部分についてはなんら異常がなかったために、写真を撮影することはまつたくしなかつた。
3 被告佐伯による鋼矢板打設と掘削工事は、原告建物の西端からわずか一・一メートルの近距離で行われた。右掘削工事は深い所でも地表から七・八五メートルの深さまで施工されたにすぎないのに対し、掘削地の東側の原告建物に隣接した部分には、鋼矢板が地表から一四メートルの深さまで間隙なく打設された。また鋼矢板の間等から若干の地下水の流出は認められたが、原告建物の地盤に影響を与えるほど多量のものではなく、さらに掘削後の土砂の移動による鋼矢板の傾きないしたわみは、被告佐伯の測定によつても認められなかつた。
4 原告従業員木村から被告佐伯に対して、亀裂が発生した旨の申出が初めてされたのは、右掘削工事が最深部で地表から七・八五メートルにまで至る第三次掘削の終了直前である昭和五八年五月二七日であつた。
5 右亀裂等が生じた時期に、被告佐伯による工事以外には、地震、他の業者による工事その他の亀裂等発生の原因と考えられるようなことはなかつた。
6 被告佐伯も、原告との交渉過程で被告佐伯の工事が原告新建物の傾斜に影響を与えたことを否定するような態度を示したことはなく、三回にわたつて原告建物の亀裂部分にコーキング措置を施し、一階天井の亀裂部分にはコンクリート片落下防止のネットを張る等の措置を講じ、昭和五八年一一月五日には、原告建物の地盤にガラス繊維剤を注入して、地盤を補強しようとした。
7 被告佐伯に対して木村から亀裂等発生の申出があつた後、隣接の中塚方からも雨が漏るので点検してほしい旨の申し入れがあり、被告佐伯が調査したところ、中塚方屋上のヒビ割れは、建築後長期間経過したことによるものと判明した。その他、原告建物以外に被告佐伯のした工事により傾斜・損傷が生じたという申出はなく、昭和五八年六月二五日の第三回目の近隣家屋調査の結果も、原告建物以外の家屋に異常は認められなかつた。
以上のとおりであり、右認定を覆すに足る証拠はない。そして右認定事実及び前記二の認定事実に徴すると、原告建物の傾斜の進行、亀裂の発生は被告佐伯の施工した工事に起因したものであり、ただ具体的には、右傾斜、亀裂等は、原告地盤の土砂の移動または地下水の大量流出を原因として発生し進行ないし拡大したものではなく、鋼矢板打設の際のアースオーガーによる削孔で原告建物の地盤が緩み、さらに鋼矢板打設、基礎杭打設、掘削の各工事で使用した重機の振動で右地盤が圧密沈下したことを原因として発生し進行ないし拡大したものと推認するのが相当である。
なお前記三における認定事実3、4によると、被告佐伯施工の工事がすべて終了し、被告建物が竣工した後も、原告建物の傾斜・亀裂が拡大していることが明らかであり、右拡大部分まで右工事と因果関係が認められるかどうかが問題となるが、以上の各事実を合わせれば、当初から若干傾斜した状態で建てられていた原告建物が、被告佐伯の工事によつてさらに傾斜して亀裂が生じ、それが契機となつて、地盤の軟弱さと原告建物自体の重量によつて傾斜・亀裂が拡大したものと推認することができるから、右拡大部分についても被告佐伯の工事との間に因果関係を認定して支障がないものである。
五以上の認定事実に基づいて、原告の、建物修復工事及び補強工事をなすべき旨の請求について検討する。
原告は建物所有権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求として右請求を行うものであるが、妨害排除請求権については相手方が現に妨害状態を生じさせていること、妨害予防請求権については相手方による妨害状態が将来生ずる蓋然性のあることが、右各請求権が成立するために必要である。これを本件についてみると、前記三の認定事実によれば、原告建物の傾斜・亀裂は、亀裂部分について一部コーキング措置が施されているものの、復旧措置は採られておらず、現在も徐々にではあるが右傾斜は進行し、右亀裂も拡大しているものと認められるから、現に原告建物所有権の円満な状態が妨害され、かつ将来にわたつて妨害される蓋然性があるといえる。しかし、妨害行為に該当する被告佐伯による被告建物建築工事は既に終了しており、被告建物敷地の掘削部分も埋め戻されているのであるから、被告佐伯による原告建物所有権に対する侵害は過去のものであり、現時点においては、被告佐伯はもはや右侵害状態を支配しているとはいえず、かつ、将来、被告佐伯による妨害状態が生じる可能性もないと解するのが相当である。したがつて原告の右各請求はいずれも理由がない。
六進んで請求原因6の、被告らの工作物責任について判断する。
民法七一七条の土地の工作物とは、土地に接着して人工的作業を加えることによつて作り出された物をいうと解され、個々の物に限らず、一定の機能を果たすための付属設備を伴つた施設全体もこれに当たると考えることができるが、土地に接着した不動産ないしこれに準じた設備にかぎられ、土地に接着しない単なる動産までも土地工作物の概念に包含することはできない。したがつて原告のいう杭打ち機械、鋼矢板のみならず工事設備全体についても、移動、取り外しが容易に出来るのであるから、土地に固定・接着した不動産ないしこれに準じたものとはいえず、土地工作物に該当しない。また、土地工作物はあくまでも物であることが前提であるから、鋼矢板の打設工事、掘削工事が工作物に該当しないことはいうまでもない。
次に被告佐伯の掘削した土地部分については、このような人工的加工によつて作出された土地の状態そのものが民法七一七条にいう土地工作物に該当すると考えられなくもない。しかしながら、原告建物の傾斜・亀裂発生は、前記六に説示したとおり、掘削に至るまでの被告佐伯の工事に起因するものなのであつて、掘削された右土地部分自体に瑕疵があつたことによるものではない。
したがつて、その余の主張について判断するまでもなく、原告の、土地工作物責任に基づく請求は理由がない。
七そこで請求原因7の被告佐伯の過失について検討する。
<証拠>を総合すると、次の各事実を認めることができる。
1 昭和五三年、原告新建物の設計を担当した三木は、地質調査の結果、杭打ち工法で基礎工事をしたうえで建築することとし、基礎杭をいれた建築設計をして建築確認申請をした。ところが右杭打ち工法を実施するためには、その用法として原告建物敷地南側の駐車場を借りる必要があつたため、原告や施工者である藤田工務店らが右駐車場の所有者と交渉したが、結局駐車場を借りることができなかつた。
そこで原告らは、基礎工事を杭打ち工法からベタ基礎工法に変更し、右変更の確認申請をしないまま、原告新建物を建築した。
2 被告佐伯が、工事着工前にボーリングによる土質調査を行つたところ、地表から一六、七メートル下に堅固な地盤が存在していたが、そこに至るまでの土質は軟弱なものであつた。この調査結果から被告佐伯は、隣接している原告建物の地盤も被告建物の地盤と同様であり、かつ原告新建物が鉄筋コンクリート造りの倉庫でもあることから、当然に原告新建物の地下に基礎杭が打たれているものと考え、被告建物敷地西側の木造住宅と東側の鉄骨二階建の中塚宅については建物の基礎調査を行つたが、原告建物の基礎についてはまつたく調査を行わなかつた。そして被告佐伯は、昭和五八年五月二七日、原告役員の木村から、原告建物に亀裂等が生じた旨の申出があつた後、原告に原告建物の基礎の状況について確認してみて初めて、原告建物の地下に基礎杭がなく、深さ一・二メートル程度のベタ基礎であることを知つた。また被告佐伯は、原告新建物の建築確認申請書副本(乙第六号証)も工事着工前には閲覧しておらず、昭和五八年七月一一日に原告建物の基礎について本格的に調査にかかつた段階で初めてこれを入手した。
3 原告旧建物は、もとからベタ基礎で設計され、ベタ基礎で建築確認をうけて施工されたが、原告旧建物の用途が店舗・事務所であつたため、建築関係法規上も右工法によることが許容された。これに対して原告新建物の用途は倉庫であり、店舗・事務所の場合より積載荷重が大きくなる前提での設計・施工が要求されるため、新建物をベタ基礎で設計して建築確認申請しても、確認をうけられないおそれもあつた。原告は、杭打ちの工法によつて確認をうけ、のちにベタ基礎工法に変更し、同変更については建築確認をうけないまま、同工法によつて工事を施工した。また施工費用の面では、原告新建物について、計算上、実際施工されたベタ基礎では約三八〇万円を要するのに対して、杭打ちベタ基礎では約八一〇万円を要し、杭打ち基礎の方がはるかに高価になる。
4 ただし一般に、原告建物の地盤のような軟弱な地盤の上に倉庫として建てられた建物についても、約四割がベタ基礎で建築されており、被告佐伯もそのことは十分に承知していた。
5 被告佐伯は、当初、木製の横矢板で土留工事をする方法によることを考えていたが、これでは被告建物敷地に近接した建物に影響を及ぼすことがあることを配慮して鋼矢板の打設の方法を採用することに変更した。また、被告佐伯が工事のため使用した鋼矢板は、川商建材からいわゆるリースによつて借り受けたもので、当初は被告建物の躯体部分完成後抜いて川商建材に返還する予定であつたが、鋼矢板抜去に伴う土の移動でさらに原告建物に影響を与えることを懸念して、抜かずにそのまま埋め殺すことにした。
しかし、仮に被告佐伯が事前調査で原告建物がベタ基礎であることを認識していたならば、鋼矢板打設の際にアースオーガーを使用することなくそのまま鋼矢板を圧入する工法を採用し、あるいは、掘削場所を原告建物の西端から、より離れた所にするように配慮し、また着工前に、原告建物の地盤の掘削地部分との境界付近にガラス繊維剤を注入して地盤改良する等の、原告建物に対する影響を防止する措置採ることが可能であつた。
以上のとおりであり、<証拠>中、右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定事実によると、次のようにいえる。すなわち、被告佐伯は、ボーリングによる土質調査で掘削予定地の土質が極めて軟弱であることが判明し、かつ掘削予定地に近接した建物の存在を知悉していたのであるから、工事を開始するに先立ち、掘削予定地の周辺建物の基礎の状態についても十分に調査すべきであり、そして調査によつて右建物がベタ基礎であることが判明すれば工事によつて右建物の傾斜等が惹起されることを容易に予見しえ、それに対応した前記防止措置を採ることができた。それにもかかわらず、被告佐伯は、原告建物の地盤が被告建物の地盤と同一であると推測されること、原告建物の構造用途から、直ちに原告新建物に基礎杭が入つているものと誤信し、掘削予定地に隣接した他の二つの建物については基礎の状態を調査しながら、原告建物の基礎についてはまつたく調査しないまま、工事に着手したものであり、この点において、原告建物の傾斜・亀裂の発生につき被告佐伯に過失があつたものといわざるをえない。
なお右認定事実によると、原告新建物は、実態がベタ基礎であるにもかかわらず、基礎杭を入れる工法で建築確認をうけているのであるから、仮に被告佐伯が原告建物の基礎について調査したとしても、原告建物の基礎の実態は必ずしも容易には判明しなかつたであろうことが窺えないではない。しかし、被告佐伯は、前認定のとおり、工事着工前には原告建物の基礎についてまつたく調査せず、原告に対し、原告建物の設計図面ないし建築確認申請書副本等の閲覧の要求もしていないのであるから、右事情は被告佐伯の過失の存否に直接影響するものではない。
八次に請求原因8の被告大京の過失について判断する。
請求原因8のうち、被告大京の営業内容については当書者間に争いがなく、これと弁論の全趣旨によると、被告大京は被告建物建築工事の注文主であるのと同時に、被告大京自身が建築設計、工事監理等を業とする者であり、中高層住宅の建築について高度の知識及び豊富な経験を有し、右工事の施工態様についても十分な知識をもつているものであることが明らかであるから、本件のように軟弱な地盤の掘削工事により、周辺土地に影響を及ぼし、特に隣接地の、工事現場に密着するに等しい至近距離内に建てられている原告建物になんらかの損傷を生じさせるおそれのあることは、容易に認識しえたはずである。したがつて、被告大京は、工事を被告佐伯に対して発注するに際して、あるいは工事施工中においても、適宜、原告建物等の損傷を防止するよう、被告佐伯に対して適切な指示を与え、かつ被告佐伯から具体的に採ろうとしている工事施工上の防止措置についての説明を受け、それを検討して右損傷防止に十分なものであることを確認したうえで、本件工事施工の注文または指図をなすべき注意義務があると解するのが相当である。
しかるに前記各認定事実と弁論の全趣旨に徴すると、被告大京は、漫然と被告佐伯に対して工事施工を一任したにすぎず、被告佐伯に近隣家屋の基礎構造についての調査を指示することもその報告を受けることもせず、その他、なんら右注意義務に即した措置を採らなかつたものであることが推認され、これを覆すに足る証拠はないから、被告大京には、原告建物の傾斜・亀裂の発生に関し、工事の注文または指図についての過失があつたものといわざるをえない。
九すすんで被告らが賠償すべき原告の損害額について検討する。
1 原告新建物の傾斜・亀裂によつて原告が蒙つたものと認められる損害は次のとおりである。
(一) 修復工事費用 金一九一九万〇一一〇円
<証拠>を総合すると、傾斜した原告新建物を修復する方法として、ベタ基礎の柱脚付近で支柱挿入用の穴を礎版にくりぬき、建物二階の大梁を反力として、H鋼を継ぎ足しながらジャッキを使つて地下一〇メートル付近の砂礫層まで圧入し、その後、礎版下にモルタルグラウトを注入し固化させるという工法が考えられ、これに要する工事費は、仮設工事、揚前工事費、クラウト工事、防水工事の各工事費及び鋼材損料を合計して金一九一九万〇一一〇円となることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
(二) 塗装工事等費用 金三〇〇万円
<証拠>によると、右(一)の工事は、傾斜した原告新建物の揚前のみであり、コンクリートの欠損部分の補填、雨漏りの補修、外壁等の塗装工事の費用は含まれておらず、右塗装工事等の費用として別途に金三〇〇万円が必要であるものと認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
(三) 工事期間中の代替倉庫料、運搬料、人夫料等 合計金三〇〇万円
<証拠>によると、前記(一)の修復工事期間中、原告新建物内の商品及び自動車を保管する倉庫及び駐車場を他所で賃借し、かつ右倉庫と小売店舗である原告旧建物との間で商品を運搬するためにトラック等を雇う必要があり、これら倉庫料、運搬料等として金三〇〇万円を要するものと認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
2 なお原告は右損害の他に、いわゆる評価損及び無形損害として各三〇〇万円の支払いを請求しているので検討する。
(一) まず評価損については、なるほど他人の所有物を毀損した者は、その物を修理してもなお残存する価値の減少分があれば、これを評価損として賠償しなければならないが、右減少額については被害者がこれを立証する必要があるところ、本件で原告建物に生じた評価損の額についてはこれを認めるに足る証拠がない。
(二) 次に無形損害、すなわち慰謝料によつて償うべき損害をその典型とする数理的に算定しえない損害については、侵害行為の態様、加害者、被害者の資産その他の特質、社会的環境等諸般の事情を勘案したうえ、加害者をして一定の見積もられた金銭をもつて賠償させることが当事者間の衡平ないし社会観念上相当と認められる場合にその支払いを命ずべきものである。しかし、本件の場合、前記認定の原告建物に対する侵害行為の態様及び被害状況に鑑みれば、その侵害によつて直ちに原告の信用及び名誉といつた無形の法益が毀損される性格のものではなく、右被害により原告の業務に支障をきたしているとの主張も、これにそう事実を認めるに足る証拠はない。また、その他本件において、前記修復費用等の支払いを受けても慰謝できないような、自然人ならば精神的苦痛に無形損害が原告に発生していると首肯するに足る主張立証は、なんらなされていない。
したがつて、評価損及び無形損害の主張はいずれも採用できない。
3 なお、被告佐伯の本件工事に関連して原告に発生したと認められる損害は、前記1のとおりであるが、前記四、七の認定事実に徴すると、原告建物の傾斜・亀裂の発生及び拡大については、原告が原告新建物増築の際、地質調査の結果から原告建物の地盤が軟弱であることを知悉し、また原告新建物を倉庫として使用する以上、相当な積載荷重がその地盤にかかることを予見できたにもかかわらず、基礎杭を打設せずにベタ基礎のうえに原告新建物を建築したことが重要な要因となつているものというべきである。
したがつて、四で判示したとおり、被告佐伯の施工した工事と原告建物の傾斜・亀裂との間に相当因果関係を認めることができるとしても、原告に生じた前記損害全額を被告らに負担させることは、当事者間の衡平の見地からも到底容認しがたいところであり、本件にあらわれた一切の事情を合わせ考えると、過失相殺の法理の趣旨も斟酌して、被告らの負担割合を三割五分と定め、前記損害額合計二五一九万一一〇〇円のうち右割合に当たる金八八一万六五三八円の賠償義務を被告らに認めるのが相当である。
4 原告が本件訴訟の提起及び遂行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著な事実である。そこで本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮し、弁護士費用の損害としては、金八〇万円の限度でこれを認めるのが相当である。
5 結局、被告らは、各自、原告に対し、右損害金計九六一万六五三八円を賠償すべき義務を負うことになる。
一〇結論
以上のとおり、原告の主位請求のうち、建物修復及び補強工事の請求部分についてはいずれも理由がなく、また金員請求部分も右工事請求が認容されることを前提とするもので失当であるから、いずれもこれを棄却し、予備的請求は、原告から被告らに対し、各自、金九六一万六五三八円及び右金員に対する不法行為の日以後である昭和五八年七月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求部分はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官岨野悌介 裁判官富田守勝 裁判官西井和徒)